作品考

2008年5月26日

 生物の硬いところが好きで、貝殻や骨、たまごの殻などを集めている。人によってはゴミに見えるだろうし、汚いと感じる人もいるかもしれないが、私にとっては大変素敵な存在だ。たとえば、私がつい拾ってしまうものとして、浜に落ちているイカの甲(※)がある。どんな一生を送ったイカなのかはもう知りようがないが、この無生物と化した甲に、一匹のイカの存在を思う。


 新陳代謝が終わり、軟らかい血肉が分解されてすっかり消え去った後、こうした硬い部分はしばらくこの世に残る。ネガとポジの関係の如く、これは生命活動が転写されたもので、生物が存在したことを示す痕跡である。この個性の消失した存在感に美しさを感じる。


私の作品制作は、無形の思考の、具体的な事物への転写であり、制作者のいなくなった後も作品はしばらくこの世に残る。大半の人には興味がなくとも、「おや」と誰かの目に留まる事もあるだろう。時を問わず、彼らと言葉を交わすのはおもしろい事だと思う。

※ イカの甲
沖縄の浜辺にはあっちこっちに沢山落ちている。貝でも骨でもない特異な姿から一体何だろうと首をかしげる人も多いが、実はコウイカの仲間が体内に持つ石灰質の甲羅である。出くわすたびになぜか胸をときめかせてしまう。

イカの甲


inserted by FC2 system