"ひ"という字

2005年9月10日「降河回遊」展コメント

 たとえば、「ひ」という字を繰り返し書いて見ると、数を重ねるごとにだんだんおかしく見えてきて、ついには「ひ」とはこんな字だっただろうかと疑い出し、筆を止める。極め つけに隣に「ぴ」などと書こうものなら違和感は頂点に達し、笑い出してしまうかもしれない。無論「ひ」にとっては心外な話で、変化したのは書いた人間の思考の方だろう。繰り返し書き、見ることによって、徐々に記号的意味から解離した「ひ」が、新たに抽象的観念を呼ぶのだろうか。

 

 私はよく生物を真ん中に配置した絵画を制作しているが、無加工、あるいはちょっぴりスパイスを加えたモチーフを観た時、池に石を投げ込んだように沈殿した思考が舞い上がれば、楽しいと思う。もし何か新しい観念が想起されたとしても、変化したのは人間の思考の方なのだろう。


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