厚い落葉を踏みしめるたび、腐植土の甘い醗酵臭が染み出してくる。
樹々の隙間から白く光る水たまりのようなものが見えた。
暗く湿った雑木林の中、そこに向かって歩き出す。
程なく正体がわかった。
ひとむらの羽毛が、地面に広がっていた。
一所にまとまっているので、遠目に水たまりに見えたようだ。
黒い地面の上、真っ白な羽毛が異様な対比をなし、
木立を抜けていく気流に、かすかにそよいでいる。
一羽の鳥が、ここで食べられたのだろう。
うずくまり、淡雪のようなそれをひと掴みたなごころに乗せる。
すばらしい清らかさ。いったい鳥は生活のなかで、どうして少しも
汚すことなく、このような純白を保てるのだろうか。
大きめの風切羽もつまみあげてみる。こちらは羽軸に沿って
薄墨を流したような柔らかな濃淡があり、白黒とは思われない
深い彩りをたたえている。
この鳥にとっての、つい昨日まで連綿と続いていた日常は、
今日ここでふいに終わってしまった。それは捕食者にとって日常の継続でもある。
かきわけ探しても、南天の実ほどの血痕も見当たらない。
なぜか怖気がふるい冷汗が湧いた瞬間、
どっと風が吹きぬけ、羽毛を落葉ごと舞い散らした。